魅力と情熱を込め、チームワークで作る紅型 ~やふそ紅型工房~
日本トランスオーシャン航空(JTA)は、1年を通じて琉球紅型を鑑賞いただけるクラスJ座席、ヘッドレストカバーを展開しています。
第1弾:2020年1月~4月「城間びんがた工房」製作 「海中艶」
(https://jta-okinawa.com/jtajournal/shiromabinngata/)
第2弾:2020年5月~8月「知念紅型研究所」製作 「七宝福良雀」
(https://jta-okinawa.com/jtajournal/bingatachinen/)
9月1日に開始した第3弾ヘッドレストカバーを制作したのは、美しい彩りが魅力の「やふそ紅型工房」
今回、やふそ紅型工房とJTA客室乗務員 石田とをオンラインでつなぎ、屋冨祖 幸子さん・屋冨祖 絵里さんのお2人に紅型の魅力についてお話を伺いました。
豊かな彩りが魅力・やふそ紅型工房
石田
やふそ紅型工房さんは、彩りが豊かで美しいのが特徴的だと感じました。また植物柄の作品が多く、柔らかく優しい印象の作品が多いと思います。
作品作りで意識していること、こだわっていることを教えて下さい。
屋冨祖 幸子(以下:幸子さん)
色に関しては、鮮やかな色をどこかに入れ、ポイントを作ることを意識します。
また黄色の紅型や藍型には、必ず「赤」を入れるようにしています。「赤」を入れることで色っぽくなるんですよ。
柄に関しては、沖縄に昔からある植物、海外から近年入ってきた植物など様々ありますが、それらの植物を図案に起こすことも積極的にやっています。
また作品を作るうえで最も大切にしているのは、「工房スタッフ全員の力が結集して作品が完成している」という意識です。工房スタッフ全員が、作品への方向性や想いを一つにする事はとても大切なことです。
石田
スタッフ全員の気持ちを一つにし、みんなの力を集めて作品をつくる…
その結果、この彩り豊かで美しい紅型が生まれるのですね。
紅型を世界へ!新たな可能性への挑戦
石田
やふそ紅型工房さんは着物の紅型以外にも、日常的に使う日傘に紅型を取り入れるなど、先進的なことをされていると感じました。
工夫している事・苦労する事も多いのではないでしょうか?
幸子さん
帯や着物などで使う古典柄では、古典のルールを崩さずに作っていくのが重要です。古典を崩してしまうと、伝統的な図柄がなくなります。
一方、日傘やバックなどで使う現代柄の場合は、色の使い方やバランスを変えています。
新しい事を始める時は苦労もあります。しかし「今すぐ売れるようにしなければ」と考えているわけではありません。
若い人たちには大きな可能性があり、世界へ広がっていく紅型を作って欲しいと思っています。今は、その為の挑戦・試作品を作っている感覚で楽しんでおり、「苦労」とは違う感覚かもしれません。
石田
紅型を沖縄から世界へ広げる…素敵な目標ですね!
幸子さん
紅型は色々なものと調和し、一つの作品になれるところが魅力だと思っています。その紅型の魅力と特徴を活かし、世界中の人が使う商品へ紅型を積極的に関わらせていきたいです。
紅型との出会い、工房を立ち上げるきっかけ
石田
幸子さんが紅型を始めた「きっかけ」を教えて下さい
幸子さん
中学生の頃の私は、美術が好きな普通の学生でした。
そんな私に、紅型好きな担任の先生が勧めてくれたのがきっかけです。紅型の魅力を伝えるのが先生は上手だったのですね。
それで私も紅型に興味を持ち、現在の首里高校染織デザイン科に入学しました。節目節目で素晴らしい人々に出会い現在があり、とても人に恵まれていたと思います。
石田
高校卒業後は独学で勉強されたと聞いたのですが、どのように勉強されていたのでしょうか?
幸子さん
私の時代は、今のように工房の数も多くありませんでした。
ある工房の色合いが好きで伺った事もありましたが、その時は受け入れてもらえなくて…
石田
厳しい時代だったんですね。
幸子さん
入る工房が見つからないことで、実は1度心が折れてしまったんです(苦笑)。
それで東京に出て、当時流行っていた宝石・装飾デザインの勉強をしました。
紅型とは全く分野が違うものでしたね。
しかし沖縄に帰ってきたとき、沖縄を愛し沖縄の工芸を発展させたい、という人と出会いました。その方に先導され、私の思うことも沢山させていただいて、自分でやるしかないと思い紅型工房を立ち上げました。
私の人生、人との出会いによって導かれていると感じます。人との繋がり、出会いには本当に恵まれていますね。
今の工房スタッフも想いを一つにできる、とても良いメンバーです。
ヘッドレストカバーへの想い
石田
今回のヘッドレストカバーは絵里さんが作成したそうですが、ご自身の紅型作品が飛行機に乗る事への想いを聞かせてください。
屋冨祖絵里(以下:絵里さん)
やふそ紅型工房の特徴として、沖縄の花や植物のモチーフが多いです。今回も沖縄の風景に溶け込み、一年を通して美しく咲くブーゲンビリアをメインで使いました。
ブーゲンビリアには「魅力」「情熱」という花言葉があります。
飛行機に乗って沖縄に来る方が、このヘッドレストを見て沖縄の「魅力」や沢山の紅型工房、沢山の作り手の「情熱」を感じていただけるように…と思いながら製作しました。
石田
とても素敵な作品ですね。お客さまにもその想い、きっと伝わると思います。
絵里さん
色に関しては、沖縄の明るい太陽をイメージし、また琉球王朝時代に高貴な色として使われていた「黄色」を用いました。
また「飛行機に乗る方が、明るく楽しい気持ちで空の旅を満喫し癒やされるように」という願いも込めて、明るい気持ちにしてくれる「黄色」を選んでいます。
石田
明るく華やかな色なので、黒が基調のJTAの座席・機内でもパッと目を引く美しさがあります。きっとお客さまを笑顔にしてくれると思います。
絵里さん
そうなってくれると、とても嬉しいです。
あと朧型(おぼろがた)という技法を使って、背景には幾何学の手毬模様を重ね染めしています。この手毬にも「万事を丸く収める」「魔除け」という意味があって、「丸々と円満で、弾むような幸せな未来へ向かいますように」という願いを込めています。
石田
お客さまに安全に旅行して欲しいというのは、私たちも強く思うので共感します!
優しい想いが沢山詰まった、素敵なヘッドレストカバーを作っていただきありがとうございます。
絵里さん
ヘッドレストカバーを見た人が、明るい気持ちで、そして安全に旅行できるといいですよね。製作に関わった工房スタッフ全員が、ヘッドレストカバーを通して祈っています。
石田
JTAを選んでくださるお客さまは、飛行機に乗ったときから沖縄を感じることを楽しみにしている方が多いです。また私たちの新制服のかりゆしウェアにも、ブーゲンビリアが入っています。
制服とヘッドレストカバーに描かれたブーゲンビリアから、やふそ紅型工房さんの想いについてお客さまへお話ができると思うと、今から楽しみです。
今後の紅型への願い
石田
最後に、今後の紅型への想いを聞かせてください
幸子さん
紅型の多様性は本当にすごいです。
他の工芸品である織りや焼き物、ガラスや漆器など色々なものとコラボしての商品作りを、これからやっていきたいと思っています。これは、若い作家たちの新商品づくりにつながっていくと思います。
是非挑戦していきたいですね。
石田
紅型単体ではなく、他のものと一緒に作品にしていくというのは新鮮です。
幸子さんが先頭に立ち積極的に新商品つくりに取り組んでいる姿は、若い作家さんの新しい可能性へつながると思います。
幸子さん
若い人には、世界に向けて発信できる新商品づくりにもっと挑戦して欲しいです。
しかし、本来の紅型の基本の部分は絶対に忘れないで欲しい。
王朝時代から続く紅型の形・技をきちんと身につけていなければ、新しい「紅型」を作ることはできません。
伝統を継承し技を守っていく紅型と、産業として新しいものを作り出していく紅型、この2つを分けて作っていかなければいけないと思います。
取材を終えて -スタッフ全員の想いを載せて-
1つの作品を作る事への工房全体のチームワーク、スタッフ全員で作品への想いを共有していることに心を打たれました。
飛行機の運航にも、スタッフ同士の気持ちを一つにするチームワークが必要です。私たちのフライトと近いものを感じた取材でした。
幸子さんの紅型への愛、絵里さんのヘッドレストに込めた優しい想いを、私たちがJTAの機内で伝えることができたらと思います。
「やふそ紅型工房」の色鮮やかで美しい紅型ヘッドレストカバーをぜひ、JTA機内でお楽しみください。
(取材 2020年7月31日)
【やふそ紅型工房】
沖縄の植物や花を魅力的に染める色使いが特徴
古典を守り、新しい挑戦を続ける工房