琉球大学医学部の体験授業に潜入!
皆さんこんにちは! 今日は、沖縄県西原町にある琉球大学医学部にやってきました。
琉球大学病院には行ったことがあっても、医学部に行ったことがあるという方はあまり多くないのではないでしょうか。今日はここで、高校生に向けた医学部体験授業「にぬふぁ星(ぶし)講座」が行われているということで、その様子を見学させてもらいました。
今年のにぬふぁ星講座は、10月23日・24日の2日間、琉球大学医学部のキャンパスで行われました。集まった沖縄県内各地の高校生15人に対して、医学部の先生方が授業や実習をする、という内容です。
琉大にぬふぁ星講座(医学部体験授業)とは
琉球大学では、高校生を対象に、大学の講義や実験・実習などを体験してもらう「にぬふぁ星講座」を実施しています。「にぬふぁ星」とは沖縄の言葉で北極星のこと。昔、夜間に航海する船が北極星を目印としたように、高校生たちが将来の進路を決める道しるべになる、という思いを込めて開設された講座です。今回の医学部体験授業では、2日間にわたって模擬授業、実習、グループ討論などが行われました。
実習では、近年すっかり有名になったPCR法を利用して、ヒトの細胞から血液型を判定するという作業を行います。見学ではなく、参加者たちが実際に試料を扱い、機械にかけて検査を行います。
また、整形外科学と感染症について、研究や臨床の第一線に立つ琉球大学医学部の先生方の講義を受講。さらには、医師になるうえで避けては通れない生命倫理に関して、参加者間で立場を分けたディベートなど、さまざまに医学を学ぶ、ということを体験します。どれも、高校生向けではなく、実際に医学部で学生向けに行われる本格的なものです。参加者たちは、ここで琉球大学医学部の雰囲気や行われている内容を感じ取って、将来の進路選択の励みにするんですね。
うかがった時間帯には、過去のにぬふぁ星講座を体験し、その後みごと医学部に入学した、現在の1・2年の医学部生3人が、自分の体験を話したり、高校生たちからの質問に答える懇談会が行われていました。
「当時の体験授業の思い出は?」「入学してみての印象は?」「一番辛いことは?」など、まずは医学部の清水千草准教授から質問。3人がそれぞれに、自分の体験を話します。
生徒からは「講義は一週間のうちどれくらいあるんですか?」「クラブ活動やアルバイトはしていますか?」などの質問が飛び出します。
さらには、高校生と学生達だけでのフリータイムも。先生方がいる前では聞きづらいことについて、本音トークが行われたかも?
過去の参加者にインタビュー
懇談会が終わったところで、学生を代表して高校生たちと話をしてくれた医学部1年の比屋定結子さんにお話を伺いました。
——こんにちは。今日はよろしくお願いします。まず、比屋定さんもこのにぬふぁ星講座の経験者だったということで、ご自身が高校生のときに講座に参加しようと思ったきっかけを教えてもらえますか?
比屋定さん:高校生のとき、将来の進路として医療系の仕事に就くための進学を考えていました。その選択肢の一つに琉球大学の医学部があって、実際にどういう場所なのか体験してみたいと思って応募しました。
——体験講座ではどんなことをしたのですか?
比屋定さん:今年はコロナ禍の影響もあって2日間のみの実施ですが、私たちのときは夏休みに5日間にわたって体験講座がありました。私は分子解剖学講座という所に配属されて、マウスの小脳切片を作り、神経細胞を可視化するという作業を実際に体験しました。それまで、生き物を解剖するという経験もありませんでしたが、実際に、高校では決して扱えないような機械を使って、切片を作り、神経を染色するといった作業を、指導を受けながらやることができました。最終日には発表もあり、一緒に配属された3人でスライドを作り、マウスの小脳の神経伝達物質の働きについて発表しました。
(体験講座を受けていた、高校生当時の比屋定さん)
——体験講座を受けての感想はどうでしたか?
比屋定さん:私は石垣島の八重山高校の出身です。石垣島には大学がなく、身の回りで大学生という存在と接することがほとんどないので、大学がどういう所かということについて、具体的なイメージを持てないでいました。体験講座で5日間医学部に通い、先生方や先輩学生の方々と一緒に作業をすることで、大学や医学部について具体的なイメージを描くことができ、医学部医学科に進学しようと考えるようになりました。
また、ほかの高校の生徒と交流することで、勉強法を教え合ったりしたことも、医学部進学のモチベーションにつながりました。
——実際に医学部に入学されて約半年になりますが、学生生活はいかがですか?
比屋定さん:大学の講義は高校までと全く違って、練習問題を解いたらテストでも似たような問題が出る、というわけではないので、初めてのテストの前まではとても不安な気持ちでした。でも、先生方もていねいに教えてくださるし、同級生たちも個性にあふれていて、なんだか「同じ人間なんだな」と思ったりします。入る前までは、医学部に入る人はみんな頭が良くて、怖い人が多い、と思っていました。(笑)
今は地域医療研究会というサークルに入って、月に2回オンラインで集まって、私の出身地の石垣島など、沖縄の地域医療の理解を深めるための活動を行っています。将来は臨床に進んで、医師として、離島の医療に貢献していきたいと考えています。
——ありがとうございました。
高校生に「本気の教育」を提供する理由とは
また、今回のにぬふぁ星講座を担当した医学部の髙山千利教授と、先ほどの懇談会で司会を務めた清水千草准教授にもお話を伺いました。
——この体験講座は、いつから開催されているんですか?
髙山教授:2018年から年1回開催しています。2020年度はコロナ禍により開催できませんでしたので、今年は2年ぶり3回目の開催になります。毎回、約30名が参加していますが、今年は感染対策を行うため15名で実施しています。
——体験授業では、どのようなことを行っているのですか?
髙山教授:一昨年までは、生徒たちを10以上の講座に配属し、5日間で実験などを行い、最終日に発表してもらっていました。今年は、初日に、PCR法による血液型判定の実習と人体の構造に関する実習、整形外科に関する講義を実施して、2日目に医療倫理に関する講義とディベート、医学部生徒の懇談会と感染症に関する講義という内容で実施しました。実習や講義の内容は、実際に医学部生が受けるのと同じレベルのものを実施しています。
清水准教授:近年、文部科学省でも「高大接続」といって、高校生のうちから大学で学ぶ内容を具体的に知り、イメージを持って大学に進学するということを進めてきています。その流れにも沿った取り組みなのではないかと思います。
——このような体験講座をやろうと思ったきっかけは何でしょう?
髙山教授:医学部では、入学試験で面接がありますが、その面接で受験者の話を聞いたり、入学してきた学生に話を聞いたりしていると、医学部に対する考え方に、私たち教える側とズレがあるように感じていました。人によっては、医師を描いた漫画のみで医学部へのイメージを描いていた学生もいました。そこで、実際の医学部の姿を高校生たちに知ってもらって、具体的なイメージを持って医学部に入学してきてほしいと思い、この医学部体験講座を開催することになりました。
——実際にやってみて、高校生たちの反応や、手応えはどうでしたか?
髙山教授:講義や実習の指導をしていると、高校生たちの目の輝きに驚かされます。大学生に講義をするときよりもやりがいを感じるのではないかというくらいに。(笑)
一生懸命にメモを取る姿を見て、担当したほかの先生方からも「やってよかった」という声をたくさん聞いています。ある意味、これが教育の原点なのではないかとも思っています。
清水准教授:体験講義では、大学の第一線の研究を高校生に体験してもらっています。「果たして、理解してくれるのか」という不安がありましたが、実施してみると、そんな心配は全く無用でした。高校生たちは意欲もあり、実際に生徒自身で実習ができて、結果も得られました。こういう体験が、高校生たちの自信につながってくれればよいと思っています。
髙山教授:高校生のうちに大学のことを知ってもらうことは、非常に重要だと考えています。専門的に学びたいと思っている生徒たちに、高校では十分に応えられないかもしれないが、大学で機会を提供できるものがある。一方で、大学はこれまで高校生のことを知らなさすぎたところがある。高校生に対して体験講座として、離島を含めた様々な高校から集まってもらうことで、切磋琢磨する環境づくりのお手伝いもできます。実際に、これまで医学部進学実績がなかった高校からも、この体験授業をきっかけに進学者が誕生した、というケースもありました。
多くの高校生に機会を提供して、医学部を志す生徒が増えてくれれば良いと考えています。
——ありがとうございました。
高校生にとっても、先生方にとっても、このにぬふぁ星講座がとてもよい刺激になっていることがわかりました。
すべての高校生が、自信をもって未来に進んでいけるように。JTA・RACは応援します。
JTA・RACでは、2018年に琉球大学と包括連携協定を締結し、教育、研究などの分野でお互いに協力し、社会の発展と人材育成及び学術研究の振興を共に目指すこととしています。これに基づき、にぬふぁ星講座の開催にあたっては、離島から講座に参加する生徒へ航空券を提供しています。今年は宮古島の宮古高校・石垣島の八重山高校から計4人が参加しました。
沖縄県の大学はすべて沖縄本島に所在しています。比屋定さんのお話にもあったように、そのほかの島に在住していると、大学というのは遠い存在になってしまいがちかもしれません。そんな中、大学での学びを身近に感じてもらうことで、大学進学を身近で具体的な目標としてとらえてもらおうとする琉球大学の取り組みは、離島を含めた高校生たちにとって大いに励みになるものです。JTA・RACでは琉球大学のこの取り組みを支援することで、すべての高校生が希望する進路に向かって自信をもって歩みを進めていけるよう応援していきます。
今回参加した高校生の中から、未来の医師や研究者が誕生することを期待します。