豊かな自然を次世代へ。JTAの取り組み
歴史、伝統文化、芸能、スポーツ、食、人など、さまざまな魅力にあふれる沖縄ですが、やはり、多くの方が真っ先に思いつくのは、青く透き通った海や、多くの天然記念物など多様な生物にあふれた大自然ではないでしょうか。
その美ら島の自然を守る活動に、JTAも深く関わっています。担当者のお話を聞いてみました。
豊かな海を取り戻すために。有性生殖によるサンゴの再生支援
――JTAがサンゴの再生支援にかかわるようになった経緯を教えてください。
沖縄へのフライトのとき、飛行機の窓から飛び込んでくるエメラルドブルーの海。このエメラルドブルーの色合いを作り出しているのがサンゴ礁であることをご存じの方も多いかと思います。サンゴ礁は、外洋の荒波を和らげ、魚などのすみかとなって、海の豊かさを作り出しています。沖縄の白い砂浜も、サンゴの骨が長い年月を経て砕け、細かくなったものが含まれています。漁師たちにとっても、サンゴ礁は豊かな漁場を育む大変貴重な存在です。
しかし、沖縄のサンゴ礁の未来は、決して明るくはありません。サンゴの天敵であるオニヒトデの増殖や、海水温の上昇による白化現象などが原因で、サンゴの被度(生きたサンゴが海底を覆っている割合)は減少の一途にあります。これに伴って、各地の漁獲量も減少するなど、サンゴの減少は沖縄の海の生態系のみならず、人々の暮らしにもさまざまな影響を与えています。
この状況に危機感を持った八重山漁業協同組合では2018年から有性生殖によるサンゴ再生の取り組みを始めました。JTAは、県内企業6社とともにこの取り組みを応援することに決め、一般社団法人水産土木建設技術センターと「有性生殖・サンゴ再生支援協議会」を2020年に設立しました。
――「有性生殖」とは、どういった方法なのですか?
サンゴは、毎年5月から6月の大潮のころに、一斉にバンドルと呼ばれる卵と精子が詰まった球体を放出します。バンドルは海面で破裂し、卵はほかのバンドルが持つ精子と受精して海底にくっつき、5年ほどで親サンゴとなり、やがて成長して大きなサンゴの群体となっていきます。これが有性生殖です。
成長したサンゴの小枝を折り取り、海底に固定することで挿し木のように増やしていく無性生殖という方法もあります。無性生殖は、手軽に始めることができ、県内でも数カ所で取り組みが行われています。一方、有性生殖はサンゴの自然な営みを手助けする方法であり、遺伝子の多様性を保つことができるメリットもあります。ただ、世界的に見ても有性生殖によるサンゴの保全はまだまだ珍しい取り組みです。新しい技術であることから、専門家の助言を必要とし、器具の準備などにも費用が掛かるのが現状です。JTAをはじめとした協議会では、専門家の派遣や器具購入などの支援を実施しています。
サンゴがバンドルを放出する時期にあわせてネットを設置しバンドルを集め、着床具という、海底にくっつきやすい環境を用意することでサンゴの幼生が自然に任せるよりもおおく発生するように工夫しています。着床具でサンゴはだんだんと成長し、数年が経過するとやがて産卵するようになります。これを繰り返して、2026年までに1,000群体を育成するのが当面の目標です。それだけの数を育成すれば、成長したサンゴの産卵により、さらに広範囲でのサンゴの増殖・再生が期待できます。
この取り組みは、途中でやめると、また振り出しに戻ってしまいます。継続した取り組みができるよう支援していきたいと考えています。
――時間をかけて継続的に支援を行うことが、サンゴの再生につながっていくということなんですね。今後の展望についても教えてください。
八重山地区に加え、2022年には久米島地区での支援を開始しました。これからも有性生殖によるサンゴ再生支援に取り組み、沖縄のサンゴ礁の再生の力になりたいと考えています。将来的には子どもの体験・教育等のプログラムの開発や視察の受け入れで広く活動を知っていただき、支援の輪を広げることにもつなげていきたいと考えています。
世界自然遺産登録に向けた、JTAの取り組み
――ユネスコ世界自然遺産に「奄美大島・徳之島・沖縄島北部及び西表島」が登録されました。どういったところが評価されたのでしょうか。
沖縄本島北部のやんばるの森や、西表島のマングローブの森林を含むこれらの地域については、アマミノクロウサギ、ヤンバルクイナ、イリオモテヤマネコなど、世界でもここにしか見られない固有の生き物にあふれる多様な生態系を有しています。こうした独特の生き物たちが暮らすようになったのは、これらの地域が1000万年以上前から、海面の変化などによりユーラシア大陸と、陸続きになったり島となったりを繰り返し、最終的に他の地域と切り離されたことに理由があると考えられています。この、独特な生き物たちが暮らす環境こそが、世界自然遺産に登録されたポイントです。
――登録のための活動には、JTAも大きくかかわってきたと聞いています。どのようなかかわりがあったのでしょうか。
2003年に環境省の調査で琉球諸島が世界自然遺産登録の可能性があるとされて以来、環境省・沖縄県・鹿児島県・地元市町村などが世界自然遺産の登録を目指した取り組みを進めてきました。JTAをはじめとしたJALグループでも、2016年から登録を後押しする取り組みを実施してきました。しかし、世界自然遺産の登録のためには、行政だけでなく、地元の盛り上がりも重要です。実際、2018年には課題が残されているとして登録延期の勧告がありました。また、登録された後の環境保全・地域振興を進めるためにも、地元企業が一丸となって、官民一体でこれらの取り組みを進めなければいけないと考えました。
そこで、2019年に、JTA・日本郵便株式会社沖縄支社・株式会社NTTドコモ・NPO法人どうぶつたちの病院沖縄の4者が発起人となって、県内外のさまざまな企業が集まり、世界自然遺産推進共同企業体を結成しました。私たちJTAは企業体の代表となるとともに事務局を担っています。世界自然遺産の登録に当たり、企業がこれだけ大規模に連携して取り組みを行うのは全国的にも先進的なものです。
JTA・JALグループでは世界自然遺産登録に向けて、外来植物のツルヒヨドリという植物の除去作業や、やんばる地域や西表島のビーチクリーン活動など世界自然遺産登録地の自然環境を守る活動のほか、これら地域の周辺へのロードキル(*1)を防止するための標識の設置などの活動を行ってきました。
*1ロードキル……野生動物などが自動車事故によって殺されてしまうこと。
また、世界自然遺産登録を応援するグッズを機内販売し、その売り上げの一部をこれら地域の活動支援にあてる活動や、機内誌Coralwayでこれらの地域に関する特集を組み、お客さまに紹介したり、ウィングレットと呼ばれる翼の先端にイリオモテヤマネコなどのイラストを描いた機体を運航したりといった、世界自然遺産登録を後押しする活動を行ってきました。加えて、これらの地域に生息する希少な動植物の違法な持ち出しを阻止するため、機内への持ち込みや手荷物のお預かり時に適切な水際対策が実施できるよう、社員教育を実施しています。
そのほか、企業体を構成する企業や行政、地域の皆さんとともに、環境保全や普及啓発などの取り組みを進めてきました。これからも、登録後の自然保護のあり方や、オーバーツーリズム(*2)対策に取り組んでいきたいと考えています。
*2オーバーツーリズム……観光客などが多く訪れることで、自然環境や地元の生活に悪影響を与えてしまうこと
このかけがえのない美ら島の自然を、未来へとつなぐために
――世界自然遺産に登録されたやんばるや西表の自然も、沖縄を取り巻くサンゴ礁の海も、沖縄に暮らす私たちが、日々意識して守り育てていかなければ、いつかはなくなってしまうかもしれません。島々の美しい自然を、美しいままに次の世代に引き継いでいくための活動にJTAがさまざまに関わっていることがわかりました。ありがとうございました。