第15回 識名酒造(沖縄本島那覇市)
当記事は2018年2月28日にサイトクローズした「美ら島物語」で公開していた記事です。
150年の泡盛が眠る蔵
沖縄が「琉球王国」だった頃、酒造りは国の管轄にありました。
王府のある首里の三箇、赤田・崎山・鳥堀で王府の命を受けた職人によって製造されていましたがのちに民営化されていきます。
識名酒造は首里三箇のひとつ、赤田で酒造りを始めました。
創業者は識名盛仁。2代目の盛恒時代に沖縄戦になり首里の町は、一面跡形もなく焼失。
酒造所も破壊されましたが、盛恒は、米軍の爆撃を受ける前に、泡盛の入った南蛮甕を、庭の地中深く埋めたのです。
戦争が終わり、焼け野原になった町は、何処が誰の家だったのかもわからない状態で、遺骨もあちこちに散らばっている中を、地中を堀りながら歩きまわり、やっと「南蛮甕」を見つけたのです!
爆撃に耐え無傷でした。まさに奇跡でした。
戦後は立ち退きもあり、三原へ引っ越し酒造りを始めますが、やはり、首里への想いが強く、1984年に現在の場所に工場を建築し、古都首里での酒造りを再開します。
現在、4代目の研二さんが、工場長の真栄城さんと、昔ながらの製法にこだわりながら酒を造っています。
研二さんは、東京の大学を卒業後、約10年間サラリーマンをしていましたが、「蔵を絶やしたくない」という思いで、後を継ぐことを決心して帰ります。
戦後、米軍の施政下にあった沖縄は、泡盛ではなく、ウイスキー全盛の頃で、どこの酒造所も経営難の時代でしたから、大変だったと思います。
「時雨」
識名酒造の主力商品でもある「時雨」。
あまり沖縄的な名前じゃないんですが・・泡盛の名前にもあまり・・・
なぜこんな日本的な名前にしたんでしょうか?
と問いかけると、すごく単純明快の答えが返ってきました。
昔は酒は量り売りでした。瓶詰めにして名前をつけ、ラベルを貼って売り出すことになり「名前」が必要でした。
折しも初秋の秋雨の頃だったこともあり、「時雨」と命名したということです。
ちなみに酒を瓶詰めにし、名前のラベルを貼って売り出したのは、識名酒造が初めてだそうです。
時雨は文字のデザインがいくつもありますが、時雨30度の商品だけ違っています。 素人がみても何だか素晴らしい文字ですねえ・・と思うような・・
それもそのはずで、書いたのは沖縄が復帰する頃にNHKの「琉球の風」というドラマがありましたが、そのタイトル文字を書いた中国人の有名な書家の方だそうです。
買うなら時雨30度がおすすめです。
首里駅にほど近い場所にある酒造所は、現在4代目の研二さん夫婦と工場長、5代目になるべく修行中の長男の4、5人で営む小さな酒造所です。
城下町の住宅街にあり、表の道路は子どもたちの通学路になっています。
道に面した建物の壁には、工場長手作りのカワイイキリンさんなどが描かれていて、何とも優しい酒造所です。
この道を通っていくこどもたちが将来「識名」酒造を忘れないでいてくれると嬉しいですね。
事務所の机の上にはあの中尾彬さんの手紙や色紙、家族や仲間と訪ねてきた時の写真がいっぱい貼ってあります。
親しいお付き合いをしてるんだそうです。
約10年くらい前にピークを迎えた泡盛ブームですが、それからは年々売り上げが落ちています。
若い人たちが飲まないんですよねえ!!
高齢者は少ししか飲まないし・・酒造所はみんな同じ悩みを抱えています。
ちょっとおしゃれにワイングラスで泡盛を!飲もうという提案もいいのでは!と言ったら笑ってました。
糖質ゼロで低カロリーの泡盛ってほんとはスゴイお酒なんですよ!
さらに時間が経つにつれ古酒になっていくという優れものです!
沖縄戦で奇跡の無傷だった南蛮甕2個は、仏壇の下でしっかり保管されていて約10年間開けてないそうです。
以前仕次ぎのために開けた時は、琥珀色に熟成していて、約1か月くらい、甘い香りが部屋中に充満していたというから、スゴイものです。
現在150年と130年。沖縄で確認できる最古の泡盛です。
あの戦争がなければ、沖縄にはたくさんの、100年以上の古酒があったはずなのに・・残念です。
これから100年後、若い世代が泡盛の古酒造りを担っていけるような工夫、支援の在り方も考えなくてはいけないと思います。
先祖が代々命を吹き込み守ってきた泡盛は、先祖に守られながら悠久の時を刻んでいくんですね。
南蛮甕の中で熟成する古酒は、4代目から5代目に引き繋がれていきます。研二さんはいいます。
みんなが自分の家で古酒を造ってほしい!150年の歴史を感じるっていいですよ。
沖縄がその昔、琉球王国だったということが実感できる酒造所です。
*150年の古酒が眠る甕は見ることも飲むことも出来ません。
識名酒造
有限会社識名酒造
住所:〒903-0813 沖縄県那覇市首里赤田町2丁目48
電話:098-884-5451
ホームページ http://www.shikinashuzo.com/
(2016.3.23掲載)