宮古島で一番古い酒造所 

泡盛を知る人で菊の露酒造を知らない人は恐らくいないであろう！というくらい宮古のみならず県内外での高い評価を受けている酒造所です。宮古島の商店街で最も賑やかな「西里通り」のど真ん中に本社があります。鮮やかな真っ赤な看板が目印です。西里通りは戦前戦後を含め宮古島の経済活動の中心でした。今でこそホテルや居酒屋、お土産店などで賑わってますが昔は荷馬車が行きかう商店街でした。菊の露酒造の前身は和歌山県出身の中尾平太郎氏が創業した「中尾酒造所」です。現在も当時と同じ場所で操業しています。宮古島の泡盛の歴史が詰まった酒造所です。3代目の下地勝社長にお話を伺いました。

 菊の露誕生の歴史

1880年生まれの中尾平太郎がどういう経緯で宮古島に移住したのか詳しい経過は不明ですが、和歌山県で生まれた平太郎は大阪の海産物問屋で働いていた時、那覇の同業者に誘われて来島。1915年に那覇東町で海産物問屋を開業しその後1919年に宮古島で材木店を開業したのち泡盛の製造を始めます。酒の名前が「菊の露」でした。中尾平太郎には酒造所の後継者がいないためやめることになりその時工場もろとも買い受けたのが伊良部島の宮の華の創業者、下地盛昆でした。1965年、盛昆の長男、潔が商品名の「菊の露酒造」として新たなスタートをします。中尾酒造から数えて今年91年になります。

菊の露酒造初代社長、潔さんのこと

 潔さん一家は勝さんが小学5年生の時に伊良部島から平良に引っ越しました。勝さんによれば当時は通りだけで5から6件の酒屋があったといいますが現在残っているのは菊の露酒造所だけです。潔さんはすごく人付き合いのいい人で夕方になると工場の前の庭でいつも宴会をしていました。そのあと、飲み屋に繰り出していくのですが財布も持たず1円も現金を持たない人でした。勝さんによれば「それで翌日は集金人がいっぱいきたさー」と笑います。

息子が豪快な人だったねえ！！というくらいです。戦後は米軍統治下の沖縄ですからウイスキー全盛期です。飲み屋にも泡盛ではなくウイスキーが並んでいた時代に泡盛で成功するのは並大抵な努力ではなかったと思いますが菊の露には平良恵修さんという伝説の名杜氏がいました。中尾酒造時代から酒造り一筋の人で潔さんより年上。寡黙な職人と社交的な潔さんのコンビは次々新しい商品を生み出していきます。

麗（れい）の誕生

 それはまさしく宮古の泡盛のイメージを変えた衝撃的な出来事でした。泡盛のボトルといえば透明か黒や茶色の瓶が圧倒的でしたが斬新な形の透明な瓶に真っ赤な文字。後ろ側を半月に刳り取った面には白い指紋が浮かび上がるというデザインでした。聞けば潔さん自身の親指の指紋でした。これがもう大ヒット！！宮古のすべての飲食店には麗しかない！みんな麗しか飲まない！宮古島中が麗に溢れていました。品切れ続出！とにかくすごいヒットでした。かれこれ30年前ですから今や知らない世代が多いので「復刻版」もいいのではと個人的には願うのみです。恵修さんは70年もの酒造りの功績が認められ1985年旭日章を受賞。潔さんは1995年黄綬褒章を受賞しています。

トップランナーとして

 潔さんは工場の拡張を進める中で1980年には宮古島の酒造所として初めて「那覇営業所」を開設します。そして1986年には市街地に第2工場の建設を始めます。翌年には東京事務所も開設し本格的に県外出荷もスタートします。さらに有名アーティストや芸能人を積極的に起用したCMが話題を呼び、菊の露酒造の名はあっと言う間に日本中を広がっていきました。実は、その取り組みを実践してきたのが現在の社長、勝さんなのです。父の時代から建設が始まった第2工場は次々拡張していき広大な工場の地下は貯蔵庫になっており泡盛が静かに熟成を続けています。

次の世代に

中尾酒造から引き継いで91年。もうすぐ100年も目の前に！泡盛の鑑評会や世界の展覧会でも様々な受賞歴がある酒造所として勝さんは「業界がもっと元気になるようにしないと。一つでも酒造所がなくならないどほしい」と願う。現在次男の一盛（いっせい）さんが那覇の営業所と宮古を行ったり来たりで修行に励んでいるという。後継者不足が心配される泡盛業界ですが後継者もしっかり育っています。笑顔で100年を迎える時が楽しみです。

 ＊名物社長だった潔さんは2004年74歳で天国へ旅立ちました。あの世でもみんなと楽しく飲んでいることでしょう。

＊本社も工場の女性のスタッフもみんな明るい笑顔がいっぱいの酒造所でした。

女性に支えられている酒造所です！みなさんありがとうございました。

ライター　下地　恵子